生で聴くThe Birthdayの衝撃とぬくもり【音楽文】

「彼らとの初対面はGLITTER SMOKING FLOWERS TOUR 2020だった」という副題で音楽文に投稿していた文章です。音楽文のサイト閉鎖に伴い、こちらに移行しました。永く読んでいただけますと幸いです。

私は、彼らの曲を数曲しか知らない。最近ハマっているバンドのルーツに、チバユウスケがあがっていたことで興味をもち、The Birthdayの曲をサブスクで数曲聴いた。聴いてすぐに、好きだと思った。でも、今更ハマっても遅いのではないかと思った。

ボーカルのチバユウスケは50歳を超えているらしい。何十年も応援しているファンがいるだろう。私は24歳だ。どうやったって古参のファンにはなれない。新参者の居心地の悪さを想像してしまった。しかし、この独りよがりな想像は、後に易々と覆されることになる。

とある年末フェスのラインナップを見ていたとき、「The Birthday」の文字を見つけた。行きたいと思ったが、まずはワンマンライブの予定を調べよう、と思い至り、検索すると、ワンマンツアーを開催中であることが分かった。

開催日、11月23日。私の誕生日前日だった。24日は仕事だが、夜行バスで帰れば間に合う。バス内で一人、誕生日を迎えることになるが、余韻に浸れて逆に良いかもしれない。

笑ってしまうほど単純だが、バンド名にあやかり、誕生日前日にThe Birthdayのライブに行くというのが最高だと思った。このときの日付は11月20日。こんなに直前にチケットを取れるはずがないと思ったが、追加販売があった。運命的な気がして、彼らの曲を数曲しか知らないまま、私は参加を決めた。

11月23日、私は大阪フェスティバルホールの3階席にいた。会場が暗くなり、SEが鳴る。このSEが「Happy birthday~~♪」から始まる、Sixteen Candlesという曲で、自分の誕生日がサプライズで祝われたのかと思ってびっくりした。もちろん、そんなはずはないのだが。

メンバーが登場し、拍手のなか現れたチバユウスケに感動する。存在感がすごい。落ち着いた動きに貫録がうかがえる。ロックンロールを体現しているかのようなその雰囲気に、ロック好きであれば一度は生で見ておかなければならない人物なのだと思わされてしまう。そして、しゃがれ声が大好きな私は、彼の一言目を聴いたとき、“やっと聴けた”と思った。

1曲目はヒマワリ。サブスクのトップソングと「はじめてのThe Birthday」というプレイリストしか聴いていなかったが、これは最近の曲で、トップソングにあがっていたので聴いていた。ライブでは、一音目の音も、声も、全てが衝撃的で、その衝撃に耐えるため、拳にした右手を左手で握りしめていた。身体に、力が入る。

イヤホンで聴いていたときは、音がシンプルだと思った。普段、ごちゃごちゃとした音楽をよく聴くからかもしれない。物足りないような、かんじすらしていた。でも、生音で聴いたとき、不要な音が一つもなく、一音一音が確実に耳の奥まで、心臓まで、届いてきて、圧倒的だと思った。生で聴いたときに一番良くなるような音の作り方なのかもしれない。来て良かったと、一曲目から元が取れたと思った。

この後も曲が続くが、私はずっと胸の前で拳にした右手を左手で握りしめたまま、離せなかった。着席の場合、こういうときがつらい。頭の中は「かっこいい」でいっぱいで、この興奮を吐き出す術がなく、拳を握りしめて耐えるしかない。静かで確かな興奮の中にいた。5曲目ぐらいまでずっとこの状態だった記憶がある。

そんななかで印象に残っているのが、チバユウスケの身振り。ギターを降ろして、ハンドマイクになると、身振りにグッと色気が出る。彼が手をあげるとドカンとサビが来たり、楽器隊も会場の雰囲気も、全てを意のままに操っているような印象を受けた。もちろんそれは楽器隊の力なのだろうが、そう魅せるチバユウスケのカリスマ性に圧倒される。彼に、飲まれてしまう。私にとっては親ほどの年齢だが、かっこよすぎて、普通に抱かれたいと思ってしまった。

だんだんライブの音に慣れてくると、衝撃よりも心地良さが勝り、ゆったりと聴けるようになった。3階席だったので、周りの人たちもゆったりと聴いていたが、リズムを刻む手元が見えたときにはそれぞれの範囲で味わっているのだなと感じ、なんだかいいなと思った。足でリズムを刻んでいたりそれが手元だったり、拳をあげていたり、左右に揺れていたり。それぞれが、自分たちの楽しみ方をしていた。

MCはあまりなかったが、それもまた良かった。まるでこれまでの人生で語り尽くしたかのようにも見える、地に足のついた雰囲気。葛藤をそのまま吐き出すような若いバンドのMCも大好きだが、これもまた、かっこいい。できることなら、この人の、若い頃のライブにも行ってみたかった。その頃は、葛藤していたのだろうか。それとも、ずっと言葉の少ないスタイルなのか。私には、知らないことが多すぎる。

今回のライブでは、ホールの壁に突き出たようなかたちの座席があったのだが、その席を見て、「観覧車みてぇな席があるな」と言ってニヤリとしていたチバユウスケが印象的だった。なんとなく、こちら側に構ってくれたというか、相手をしてくれたような感覚だった。それから、「ここ何階?」と問いかけたが客席から返事がなく、コロナ対策で観客が喋れないことに気づき、「…あ、喋っちゃだめなのか」と言ったあと、もどかしそうに「慣れねえなあ!」と笑ったのがたまらなかった。最高にかっこいいのに、とってもお茶目で、私はいとも簡単に射貫かれてしまった。

ライブも終盤に差しかかる。私は、ほとんどの曲を初めて聴くというくらいの状態だったのだが、初めて聴いたのに非常にテンションが上がってしまったのが、13曲目の1977という曲。周りの観客もすごく嬉しそうな顔をして拳をあげていて、フロアの観客の体の揺れ方を見ても、本当に楽しそうで、多くの人に愛されている曲なのだなと思った。この曲の、「心から爪先まで持ってかれて帰れない」という歌詞が、このとき私の心情を歌っているように聴こえ、ニヤニヤしてしまった。もう、私は帰れないのだ。

続けて演奏されたのは、14曲目、OH BABY!という曲。この曲はサブスクのプレイリストで元々聴いていて好きだったので嬉しかった。私の中では、ライブ開始時の、衝撃による緊張状態から、中盤の心地よさ、そしてテンションが最高潮になる終盤へ、という流れができており、終盤になって初めて拳をあげた。ファンになったと確信したからだ。この日、私はにわかから、ファンになった。

本編ラストは15曲目、オルゴール。最後に心地よい余韻を残していってくれる、そんな曲。たくさんのミラーボールを使った演出が美しかったが、演出に負けない存在感を放つ彼らから、目を離せるはずがなかった。
そして、あの場にいた全員が思っただろうが、アンコールが最高だった。

アンコール1曲目は、くそったれの世界。事前に聴いて、一番好きな曲だった。どう聴いたってかっこいい音が心を湧き上がらせ、「お前のそのくそったれの世界 俺はどうしようもなく愛おしい」という歌詞がかっこよく歌いあげられていくさまに心が救われていく。なんだろう、この気持ちよさ。漫画を読んでいて、伏線が一気に回収されていくときの気持ちよさみたいな、もやもやした気持ちが一気に回収されていく爽快感があった。

2曲目は声。この曲は知らないまま行ったので、初見でじっくり味わった。3曲目は、なぜか今日は。事前に聴いて二番目に好きな曲だった。とにかくワクワクする曲。ライブとか、誕生日とか、特別な日にこの曲を聴くと「今日」を感じられる気がしてとても良い。この日はThe Birthdayを初めて生で見た、特別な日だったので、この曲を聴けて嬉しかった。

3曲目が終わった後、チバユウスケが、「大阪でツアーのファイナルやるの俺の人生の中で初めてなんだわ。」と言って始まったラストの曲は、涙がこぼれそう。まさかのマイクを通さない、地声のアカペラで、「電話探した あの娘に聞かなくちゃ 俺さ 今どこ?」と最初の1フレーズが歌われる。3階なのにマイクなしでダイレクトに届く、力強くて、渋くて、優しい生の歌声に興奮が止まらなかった。

そして驚いたのが、チバユウスケの長い音楽人生のなかで、初めてがまだ残っていたことだ。私が彼らを初めて生で見た日に、彼らも大阪でファイナルという初めてを迎えていた。悪いことが重なることも多いが、嬉しいことが重なることもまた、多い。この日は嬉しいことが重なった日だった。こういう日に、音楽好きは救われるのだ。

終演後、このツアーの別の公演のセトリも見たが、どれもアンコールは3曲らしかった。ファイナルだけ4曲目があるというこの粋なサプライズに、彼らのサービス精神を感じ、嬉しくなった。

耳も目も心も、すべてが満たされたライブだった。多くの人に、一生、愛されるような音楽家がもつ圧倒的な魅力を放つライブ。愛される理由がよく分かったような気がした。そして特筆しておきたいのが、観客の拍手のあたたかさ。称賛や感謝が拍手じゃ足りないとでも言いたげな、いつまでも拍手を送りたいという意志が感じられるような、そんな拍手だった。

ライブの数日後、長年のファンの方とSNSでこの日のライブについてお話しする機会があったのだが、「あの日の我々は拍手に託しました。」という言葉をもらったとき、心の底から納得した。コロナ対策として、観客が発声できなかったこともあったのかもしれない。溢れんばかりの想いがあの日の拍手には託されていたのだ。

この日のライブレポートを、私は自身のブログサイトで公開した。この文章の元となったレポートだ。数曲しか知らない状態で参加したことに対して、批判があるかもしれないと思ったが、反応は違った。レポートを読んだThe Birthdayのファンの方々から、私の元に届いたメッセージは、「このタイミングで好きになってくれたことが嬉しいです。」「読みながら嬉しくてニヤニヤしました。」「The Birthdayの世界へようこそ!」などの、歓迎の言葉たち。

なんて優しい世界なのだろうと思った。古参にはなれないから、新参は受け入れてもらえないだろうから、あまり聴き込まないでおこうと思っていた自分は、人として浅かったのだと思い知った。The Birthdayのファンは、このバンドに対する「好き」という気持ちを肯定し、“いらっしゃい!”と言って招き入れてくれる、温かくロックな人たちだった。

最高にかっこいいロックンロールバンドが、愛に溢れたファンをもっていること、その関係性もひっくるめて、私はThe Birthdayに惚れてしまった。この後日談を含めたくて、ブログでとどめず、音楽文に投稿することにしたのだ。

この文章には、「生で聴くThe Birthdayの衝撃とぬくもり」というタイトルをつけた。初めて彼らの音楽を生で聴いたときの衝撃を残しておきたかった。そして、彼らを愛している人たちのぬくもりを文字にして、目に見えるかたちにしたいと思った。

この文章が、音楽文に掲載されることで、たくさんの人の目に触れ、誰かの心に残る文章になることを願う。
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